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パイプライン クタメシン
 

パイプライン クタメシン

 クタメシンはシグマ-1受容体アゴニストで当社が長年にわたり開発を続けている化合物です。中枢神経疾患治療薬として開発を進め、脳梗塞および重症のうつ病を対象として臨床試験を行ないましたが、前述したようにシグマ-1受容体に関して科学的な発見が次々と発表され、生理機能がかなり明確になってきたこともあり、対象疾患を見直して新たな効能で開発することとしました。対象疾患として脳梗塞も追求して行きますが筋萎縮性側索硬化症(ALS)を第一のターゲットとしています。また、眼科への応用も検討し、有望な実験結果を得たことから眼科での用途特許も出願しています。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 ALSは中枢の運動神経が徐々に壊死し、全身の筋肉を動かすことが困難になり、最終的に死に至る難病です。運動神経が特異的に侵されるものの他の中枢神経は正常なため、意識レベルは正常に保たれます。発症後3〜5年で死亡するのが一般的で進行が極めて早い病気です。現在、治療薬としてリルゾールという化合物が唯一承認されていますが、効果は明確でなく、より良い新薬が強く求められています。
 サイエンス-シグマ-1受容体のページに記したとおり、シグマ-1受容体の機能不全がALSの病態に深く関与していることを示唆する論文が数多く発表されています。中枢神経系の中でも特に運動神経においてシグマ-1受容体は重要な働きをしているようであり、ALS以外でも運動神経に障害を及ぼす疾患ではシグマ-1受容体アゴニストが治療効果を示します。我々は、ALSの動物モデルでクタメシンの効果を確認していますが、これ以外にパーキンソン病、脳梗塞など運動神経障害を伴う動物モデルで効果を確認しています。ヒトにおいても、クタメシンは脳梗塞患者でのフェーズ1/2試験で、重症の症例において運動機能の回復促進効果を示しています。脳梗塞における運動機能障害は運動神経の障害に起因するものであり、脳梗塞の患者で見られた運動機能の回復促進作用はクタメシンが運動神経に作用し、その障害を軽減、回復させたことを示唆するものです。したがって、ALSにおいてもクタメシンは効果を表すことが期待されます。

脳梗塞

 脳梗塞は脳血管が血栓によって血流が遮断されることにより発作的に発症します。死に至らなければ、その後徐々に神経障害は回復しますが、回復の過程においてリハビリテーションを行うと回復の度合いは大きくなります。リハビリテーションの実施によってシグマ-1受容体遺伝子の発現が増大することが明らかになっています。シグマ-1受容体は脳梗塞の大きな神経組織障害に対し、回復促進に一役買っていることが明白になっています。
 上記の通り当社はクタメシンについて脳梗塞の患者を対象にフェーズ1/2に相当する小規模の臨床試験を行ないました。重症例で回復促進の効果が見られています。

臨床用法用量の決定

 クタメシンの開発で特筆するべきことは、用法用量設定試験を実施する必要がないことです。受容体と呼ばれるタンパクの特徴は、特異的に結合するリガンドが存在すると、リガンドの濃度がある濃度以上になるとほぼすべての受容体分子にリガンドが結合し、飽和状態になることです。飽和状態になると、リガンドの量を増やしても生体反応はそれ以上大きくなることはありません。受容体に作用する薬物では、必ず飽和という現象が見られるため、飽和濃度を知ることによって薬物の適量を決めることが出来ます。
 当社はクタメシンの脳におけるシグマ-1受容体への結合占拠率をヒトで測定しており、3mg、1日1回の経口投与で脳内シグマ-1受容体はクタメシンでほぼ飽和されるという結果を得ています。用量を増やしてもシグマ-1受容体にこれ以上クタメシンが結合することはありませんので、3mg、1日1回がヒトに対する最適の用法用量です。
 具体的にはポジトロンを放出する11C原子で標識したクタメシンをヒトに投与し、ポジトロン断層法(PET)で脳内分布を調べることによってクタメシンのシグマ-1受容体への結合を測定することができます。微量の11C-クタメシンを投与するとクタメシンは脳内のシグマ-1受容体に結合し、これから放出されるポジトロンが観察されます。一方、被験者にクタメシンをあらかじめ経口投与した後に11C-クタメシンを投与すると、ポジトロンの放出がほとんど観察されません。これは先に経口投与したクタメシンがすでに脳内受容体に結合して占拠してしまっているため、11Cでラベルしたクタメシンが後から来てもシグマ-1受容体に結合できないためです。下は10mgのクタメシンを経口投与後2時間および20時間後の測定写真ですが、10mg経口投与で20時間後でもシグマ-1受容体にクタメシンが結合したままであることを示しています。

クタメシン投与前
クタメシン投与前
クタメシン 10mg投与 2時間後
クタメシン
10mg投与 2時間後
クタメシン 10mg投与 2時間後
クタメシン
10mg投与 20時間後
11Cで標識したクタメシンのヒト脳のPET画像。赤色、黄色の部分に標識 クタメシンが結合している。標識していないクタメシンを経口投与すると、 シグマ受容体を占拠するため、後から標識したクタメシンを投与しても結合 が観察されない。

 このようなヒトでの測定結果から対象疾患がどのようなものであろうと1日1回、3mgの経口投与で薬効は発揮されると言えます。
 クタメシンがPETにおいて非常に良いリガンドになることは、クタメシンが受容体以外の組織に非特異的にほとんど結合しないことを意味しています。すなわち、クタメシンは脳組織において、蓄積性がほとんどなく、容易に排泄されるという性質を持っています。多くの薬物では、組織に非特異的に結合し、蓄積するケースがあり、これが思わぬ副作用の原因になると考えられます。PET試験において良好なリガンドになり得るということからクタメシンは安全性の面からもすぐれた性質を持っていると言えます。