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サイエンス シグマ-1受容体
 

サイエンス シグマ-1受容体

 シグマ-1受容体は1976年に初めてその存在が報告されたタンパク質です。当初は何らかの神経伝達物質の受容体と考えられていました。すなわち情報伝達機能に関与するタンパク質として細胞膜上に存在するものと予想されていました。しかしながら、2007年にHayashi & Suによって、シグマ-1受容体は細胞膜上に存在するのではなく、細胞内の小胞体膜上に存在することが明らかにされました。小胞体膜でも特に、ミトコンドリアとの接合部に局在しています。彼等はシグマ-1受容体の細胞内の局在性を明らかにしただけでなく、シグマ-1受容体の機能が細胞の恒常性維持に関わるものであることをはじめて指摘しました。シグマ-1受容体タンパクはシャペロン様機能を持っています。シャペロン分子として、他の生理的に重要な機能を有するタンパク質に作用して、細胞の生理機能を調節しています。たとえば、ミトコンドリアのカルシウムの濃度調節に深く関わっているIP3受容体タンパクを安定化します。また、小胞体ストレスに対するセンサーとして衝くIRE1タンパクの安定化にも働きます。このようにシグマ-1受容体タンパクは種々のタンパク分子にシャペロンとして作用することにより、ミトコンドリアのカルシウム濃度の恒常性、ATPの産生促進、小胞体ストレスの緩和などに深く関与し、細胞の障害の軽減やアポトーシスの抑制をもたらします。シグマ-1受容体は神経細胞以外の細胞にも存在しており、体全体の種々の臓器において細胞の生存を維持する作用を担っていると考えられますが、特に細胞の増殖によって組織修復ができない組織において重要な役割を果たしています。このようなシグマ-1受容体の生理機能を促進するアゴニストは、細胞障害を伴う様々な疾患の治療薬になり得ると考えられます。
 下の写真はラット胎仔の海馬の神経細胞の初代培養系に当社の保有するシグマ-1受容体アゴニストMC116を加えたものです。明らかにシグマ-1受容体アゴニストを加えた神経細胞ではコントロールと比較して突起の伸張が促進されているのが判ります。
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 ラット胎仔の大脳皮質神経細胞の培養写真。培養液中にシグマ受容体アゴニスト(MC116)を加えることにより、神経突起の伸長が促進される。
 神経突起の伸張のためには、多量のエネルギーが必要です。そのため突起の先端部にはミトコンドリアが多く集積していますが、同時にシグマ-1受容体タンパク質もミトコンドリアに共役した形で神経突起先端に集積しているのが観察されます。アゴニストはシグマ-1受容体を活性化し、その結果ミトコンドリアでのATP産生が増大し、突起伸張が旺盛になったと考えられます。
 最近のシグマ-1受容体に関する研究で注目を集めているのが、運動神経におけるシグマ-1受容体の重要性です。シグマ-1受容体のノックアウトマウスでは、運動機能に異常が見られ、運動神経の壊死が見られます。(Neuroscience 167, 247, 2010; Neuroscience, 240, 129, 2013)また、ヒトの遺伝子の解析等によっても筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者でシグマ-1受容体遺伝子に変異が生じていることや、シグマ-1受容体タンパクの機能不全が明らかにされています。(Ann. Neurol. 70, 913, 2011; Hum. Mol. Genet. 22, 1581, 2013)
 我々はシグマ-1受容体に選択性の高い化合物クタメシンで臨床試験を行ない、確かに運動神経障害による運動機能に対して治療効果があることを示唆する結果を得ています。このようにシグマ-1受容体アゴニストはALSをはじめとする種々の運動神経の変性に起因する難病に対する全く新しい治療薬となり得る可能性を持っており、当社ではシグマ-1受容体のプログラムの実用化を進めて行きます。